林巧を何冊か読んできたが、初めて「良い文章を書ける人なんだ」と思った。『アジアもののけ島めぐり』や『アジア夜想曲』は、平板な文体・乏しい内面性のためにまったく面白くなかったが、本書はなかなかだった。
台湾と香港をテーマにまとめた文集であり、台北のストリップ劇場で知り合った老人の話、香港の路上の新聞売りのお婆さんの話など、それぞれの土地に生きる人々とのセンチメンタルな交流が語られている。
著者は中国系なのか中国の言葉を自由に操り、地元の人々の間に入り込んでいく。そこに生まれる微妙な距離感。親しいけれども、隠している部分も多い。そのあたりが巧みに描かれている。この距離感はアジア旅行記でもっとも大切な要素なのだと思う。他の著作では対象を突き放しているがために面白みが欠けていたのだろう。