毛についてはたくさんの本が書かれているが、この本は10年にわたる綿密な調査と多数のインタビューによって毛の真実に迫った本としてかなりの評価を受けることは間違いないだろう。最初は半信半疑で読み始めたのだが、特に後半にいたって、従来私の持っていた疑問がいくつか氷解し、内容も真実性が高いと思うようになった。ただ、ところどころ毛に対する反感があまりにストレートに出ているため、客観的評価をする立場を外れているように見受けられる点があって信頼性を損なっていることがあるのが惜しまれる。さらに大躍進についての記載が弱い。文化大革命は主としてインテリ層への攻撃で始まったこともあってその実態については多数の知識層からの記録が発表されているのに対して、大躍進では主として無知な農民層が犠牲になったため、一説には3000万人という空前の犠牲者をだしたにもかかわらず、犠牲者の数を含めて詳細がはっきりしていない。この本でもインタービユーや文献調査のほとんどが権力者やインテリ層の記したものに限定されているため、大躍進についての記述は表面的である。大躍進の失敗とそれに対する批判がその後の劉少奇ほかへの毛の憎しみの契機になったことを考えると、もっと詳しく分析されてもよかったのではないだろうか。