本作は,モームが47歳から73歳までの間に発表された短編集から6編が選ばれ収録されており,かの有名な「雨」の最新(2011年)の翻訳を読むことが出来ます。
訳者あとがきによれば,
「彼」「彼女」といった人称代名詞を極力控え,より意識して文章のリズムに心を砕いた。またモームは劇作家でもあり会話が非常にうまいため,とくに会話のテンポには気を遣った。
とのことで,確かに文章のテンポは良く,会話文も自然で読みやすいです。
本書は,岩波文庫から出ている行方昭夫翻訳の短編集収録の「ジェイン」「マウントドレイゴ卿」の2作がかぶっていますが,それぞれを読み比べるとそれぞれに良いところがあり,できれば両方を読んでみることをお奨めします。
たとえば,本書ではリズムを重視するあまり,すっと読んでしまったあと,あれどういう事なんだろう,と思う場面がありましたが,行方昭夫訳では,なるほどと気づかされることがありました。逆に,行方昭夫訳では,言い回しがゆっくりもったりしているなと思う場面が,本書ではサラリと自然に読み進めることもありました。
いずれにしてもモームの短編は,どれも面白いです。
そして,どの作品においても,底に流れるのは人間のもつ不可解性,矛盾性です。
だからこそ,人間は面白く,更に面白い作品が生まれるのでしょう。