「物凄く端的に」表現したとしても、この作品を下の方のレビューのように『母をたずねて三千里』を引き合いに出して紹介するというのは、どうかと思います。
というのも、父親のカーンにはそれぞれ母親の違う3人の子供がいますが、そのうち2人は私生児で、この映画を撮った息子のナサニエルは、その私生児の内のひとりだからです。
そのような事情から、亡き父親の存在すら受け入れられずに生きてきた息子が、自分の全アイデンティティーをかけて、世界に散らばる父の建築物を5年もの歳月を費やして巡り、それぞれの建築に関わった人々や、お互い避けるように暮らしてきた自分以外の家族の証言をもカメラのもつ中立的な力を借りて映し撮ってゆく。そしてそのようにして制作した作品のなかで、亡き父親と対話し、理解しようとする。それが、この映画の主題なのです。
ですから『母をたずねて三千里』のように、元々ちゃんとした家族構成で、最後は家族4人の再会で大団円。という娯楽アニメとこの映画は、一線を画するのです。
そのことが解らなければ、ラストシーンでナサニエルが亡き父へむけて放つ全てを籠めた一言の持つ深い意味を、真の意味で理解することは不可能でしょう。
私はこの作品を、建築関係の人に、気軽にすすめすたりは出来ません。ルイス・カーンの生き方と作品を観ることで、良くも悪くも、自らの実力と自らの残せる仕事の内容が見えてしまうからです。
映画にエンターテイメントだけを求める人にも、おすすめしません。
しかし、(書いたこととは矛盾しますが)出来ることなら少しでも多くの人にこの作品を観ていただきたい。
DVDのジャケット写真は、まさにこの映画の内容を、何よりも端的に表現しています。もし、ジャケットの写真を御覧になってピンとくるものがあれば、お求めになることをおすすめいたします(ちなみに私は、ジャケ買いしました)。
最後に、ナサニエルの言葉を紹介し、レビューを終えることにします。
11歳のとき、父は駅のトイレで死んだ。
3つの家族、破産寸前のアトリエ、そして人々の人生を変える建築を残して。
多くの謎に包まれた父の人生に触れたくて、僕は旅に出た。