音楽性とコンセプトのバランスが抜群。
サンプリングの妙技と音のパレットの豊富さ。ラップそのものも、ここで一つ極めたという感じ。いろんな仕掛けがちりばめられているので、聴き手が思わずいろんなことを語りたくなってしまうというのも、MCラップの先行者とは明らかに違うカニエの個性だ。美術系の出身ということも大きく作用し、これぞヒップホップのエポックメイキングと呼びたくなるほどのインパクト。ある意味、もはやポップミュージックというより、現代アート(ポップアートを飛び越して)作品というイメージ。どこまで高く評価するかは個人の好みとなるが、音楽と美術好きでこのアルバムを受けつけない人はいないのではないかと。
内容についてはすでにあちこちで力作のレビューを見かけるし、国内盤には小林雅明氏と高橋芳朗氏による気合いのこもった評論&ライナーがつけられているので、DVD『ランナウェイ』ショート・フィルムの冒頭で感じたことを一つだけ。モーツァルトのレクイエム「ラクリモサ」が流れる。モーツァルトが死の前日に8小節目まで書きとめ、そのさきはついにペンを取ることがなかったといういわく付きの曲だ。そこにアルバム曲をかぶせていくという演出、じゃっかん「やりすぎ?」感もあったが、あれはあれで秀逸。ちょっぴり映画『ファニーゲーム』のオープニングを連想させつつ、そこまで含め個性的。一見の価値はあり。