最近、輸入作物の価格高騰を受け、これまで高泌乳化ばかり目指していた組織も、粗飼料中心の放牧などに転換する動きが、そこかしこあるらしい。
だけれども、世間の流れが全く逆だった時代から、高泌乳化が、牛の不健康や農家の過重労働ににつながる負のループであることを見抜き、そこから脱却した人たちがいました。
著者は、その一人。
東京の浅草生まれで、23歳で奥さんと共に北海道の中標津に新規入植された方です。
入植して10年程は、生産を拡大して一日も早く一人前の牛飼いになりたいと専念して働いていたのですが、
多額な負債の償還計画書を前に立ち止まり、
経営規模の拡大によらず内容の充実、営農の習熟につとめ、農場の主人公は土・草・牛であり自分はその助け手という視点で営農を展開し、
結果、適正規模の酪農が確立でき、ゆとりある暮らしが実現できたのです。
この本には、その考え方、ノウハウが散りばめられています。
著者は、自分の農場が、たまたま、条件が整っていた幸運な例などでは、ないことを強調しています。
自分たちには出来ない、と思い込んでいる酪農家は、結局、
抱えている負債の多さに、系統組織や行政と傷をなめ合い、同調して、見通しを立てずに納得している、
または、せっかく補助金で買ったから、と、手放すべき施設をいつまでも抱えたり、手放すべき牛を手放す決断をせずにいるだけ…
と、なかなか厳しくも納得できる指摘をしています。
そして、経営分析の方法から、堆肥の切返し作業について、と、具体的な営農方法にアドバイスしています。
といっても、専門的になりすぎることはなく、私のような素人に読める範囲です。
写真や図が、わりかし多く載せてくれているので、助かります。
例えば、牛舎の見取り図、敷地の見取り図(いつどこに放牧するかの説明付き)、バーンクリーナーの写真、交流会の写真、ご夫婦でバイクに乗ってツーリングに出かける写真など。
朝何時から作業をして、いつご飯を食べて、お昼いつごろ余暇があって、夕方何時に作業を終えるか、という標準的な1日のタイムスケジュール表(夏と冬の2種)が載っていたのは、とてもイメージがしやすくなって良かったです。
ただし、素人には、一個一個の重機(トラクターやロールべらーなど)から、一個一個の容器(ミルカーやバケツ)まで写真を載せ説明してくれたほうがわかるのですが、さすがに、そこまでは載せていません。
本を読んで、良いなぁ、と感じたことはいっぱいあります。
分娩後、子牛を親牛に十分なめさせるとか、
子牛を野外のカウハッチで飼うのでなく、親牛の牛舎に隣接しているハウス内で育てるとか、
年がら年中種付けをするのでなく、牧草の生育に合わせて3月前後の分娩を目標に6月に種付けをするとか、
朝起きたらまずゆっくりお茶を飲む、このお茶は男性がいれるべき、とか、
勉強会は夫婦同伴が原則、とか、
チーズをつくる会が出来たとか・・・。
そして、著者は、搾乳を、あえて夫婦二人で行っているとのこと。別々に作業したほうが効率的であるのに。
「その場で子供のこと、営農のこと、将来のことなど、こころ素直に話せるものです」
素敵ですね。
「私たちは酪農家だからという理由で、いろいろなことをあきらめていました。ともに朝食をとり、子供を学校へ送り出すことを、子供の帰宅のとき家にいて迎えることを、家庭菜園をもち、漬物をつくり、調理や食事に時間をかけることを、家族揃っての外泊旅行を、女性はスカートをはくことさえあきらめていました。しかし、農業は生き方の表現なのだと気がついた時、暮らしが変わり、暮らしが文化をつくることになってきました。」
「“もっと、もっと”はやめて“ほどほど”がよいと思います。・・・営農も暮らしも、ほどよいぐあいにバランスをとりたいものです。」
2000年に第1刷が出た本ですが、古さを感じさせない、また、酪農にとどまらず、サラリーマン家庭にとっても、含蓄のある生活の考えだと思います。