「マイトレイ」の面白さは、文体にもあり、シチュエーションにもある。これを書いたのが1907年生まれの人だとは私にも信じがたかった。陳腐な表現ですまないが、「初々しい」文章なのだ。これを戦後生まれが書いた小説だ、とダマして誰かに作者名を伏せて読ませたら、信じるかも。
また、とても読みやすい。読者はまったく退屈させられない。主人公の、マイトレイに対する愛情表現も、今の、2009年の日本の読者にも、違和感を与えさせないであろう。
「軽蔑」は…ジャン・リュック・ゴダールが映画化した、ということで手に取った方もけっこういらっしゃるのでは。正直、映画版はつまらなかった(失礼)が、原作はなかなかいい。主役のリッカルドが、彼の妻をなんとかして、なくなってしまった「愛情」を共に取り戻そう、ともどかしいたたかいを身内で繰り広げる…こう書くとつまらん小説だ、と誤解する方もいると思うが、そんなことはない。かくいう私も、ゴダール映画版があまりにもつまらん(失礼)出来だったので、原作にも過大な期待をしていなかったが、読んで驚いた。面白いじゃん、と。
「愛とは決して後悔しないこと」と言われる。正直、私の短い人生経験ではこの言葉の重さが今まで、よくわからなかったのだが、この2つの優れた小説は、私にとって(そしてあなたにとっても)この理解することの助けになるのではないだろうか。
ただ、「軽蔑」が「少し中だるみしている」ことと、「登場人物の『オデュッセウス』論がやや読者にとってうざったい」かもしれない、ということで、☆は4つにしておきました。
蛇足:ゴダールの映画がどこがいかんかといいますと、モラヴィア独自の「対人距離感」が映画ではただの夫婦倦怠物語に堕しているということです(極端ですが)。ゴダールの映画だけを観て本書を軽視しないでください。原作小説はもっと読みやすく面白いですよ。