私はボクシングファンではありません。ボクシング、まともに見たことないです。マイク・タイソンのファイト姿も知りません。タイソンに興味を持った切っ掛けは、彼は子供の頃から鳩が好きらしく、鳩博士のように鳩語りをする姿を見て「面白い人だ」と唸ったせいです。という訳で、「何故か鳩にやたら詳しい元へヴィ級チャンピン」のドキュメンタリー映画を見てみました。
ミッキー・ローク主演の『レスラー』を見ていて感じるような痛さが来るドキュメンタリーです。そういえばミッキー・ロークとタイソンは似ています。どちらも良いインタビューをする。バカ正直で裏表がない。知らないことは「知らない」とすんなりと答える。如才ない発言は出来ず、それ素のまんまでしょう、という姿で喋る。意外にも自己分析的で、言語能力が独特に高い(と感じる)。モゴモゴ喋りで「何言ってんだか分らん」という滑舌なのに、何を語っているか大まかには分かってしまう。彼らの何かが高い表現力を発している。悲しいことがたくさんあったのだ、とよく分かる。
もう苛められたくない、もう傷つけられたくない、だから世界一強い男になる、という眩暈がするような単純公式を実行に移せる男は何十億人に一人くらいのもんでしょう。それを実現してしまったのは彼にとって幸福だったのか不幸だったのか。大衆の妄想を掻き立てるほどの肉体的な強さを持つということは、悲劇なのか喜劇なのか。見ている側に考え込ませてしまう映画です。
監督がマイク・タイソンに惚れ込んでいるのが分かります。そしてその理由も察することが出来ます。確かに破格な個性と痛いほどの脆さの持ち主です。彼の女性観が一部に不興を買ったようですが、まあそれもバカ正直の表れです。こういうスーパーマッチョにPCを期待しても仕方がない。こんな男ジョーダンじゃねぇと感じる女は寄ってかなきゃいいというだけの話です。私はマイク・タイソンと女性たちの関係については、「群がる女の側についても批評しなさいよ」としか言えません。ちなみに私は例の性犯罪歴は濡れ衣だろうと以前から思っていたので本作を鑑賞した次第です。ギリシア悲劇の剛力男みたいな人ですね。平穏に辿り着くまでに長い長い旅路を行かねばならない荒ぶる魂です。