私にとってとりわけ印象深い演奏は、再録された「タンゴ・アン・スカイ」と「サンバースト」。
「タンゴ・アン・スカイ」はアルバム「アランフェス協奏曲」に収録されていた。この時は交響楽団との共演。「ポートレイツ」ではソロでの演奏。私は以前にコンサートでこの曲のソロ演奏を聴いたことがあった。「ポートレイツ」に収録されたソロ演奏では、熱情/翳りの対比がオーケストラバージョンや以前のコンサートのときよりも豊かに伝わってくる。タンゴらしい。とりわけ、コンサートで演奏を「視聴」したい曲。
「サンバースト」はアルバム「カヴァティーナ」にも収録されていた。「ポートレイツ」では、序曲からの演奏が収録されている。「カヴァティーナ」では、朝の堅い光線が真っすぐ差し込むように、歯切れがよく勢いがある。木々に囲まれた家で目覚めをむかえるような、爽やかな印象。山中で渾渾と湧き出て沢を滑り降りる水流のような調べ。対して「ポートレイツ」では、午後の柔らかな光線が雲間から差すような、豊潤さやゆとりを感じる。風渡る草原の傍ら、ポーチに置かれたベンチに座って微睡むような心地よさ。拓けた平野に至った河が大きくゆったりと流れていくような調べ。
「カヴァティーナ」での、白いシャツで凛と立つ姿と清々しい「サンバースト」の演奏とで、私は村治佳織さんの虜となった。「ポートレイツ」を聴くと、円熟してきた村治さんの仕事と時の移ろいとを感じる。