『ポーの話』という素朴なタイトルと、その装丁の美しさにまず目を奪われました。 黒の地に描かれた、カラフルなのにしっとりと柔らかな印象のイラスト。うなぎ、飛んでいるのは鳩?、花、裏表紙にはうみうし。作品の世界を象徴するかのような月。
<きれいはきたない。きたないはきれい>……いしいしんじさんの作品を読むと、いつもこの言葉が頭の隅に浮かんできます。
この話も混沌としていて、自分の頭がいつもよりもっと悪くなったんじゃないか?という気がしてきます。
ポーの母たちである、泥の川に生きる「うなぎ女」のありさまは一種異様です。でも、ポーが生まれる場面やポーに対するうなぎ女たちの愛情は、原始的な母性を感じさせます。愛され守られる存在として生まれたポーが印象的。 ポーという存在は何かに喩えることができません。純真無垢といえばニュアンスがちょっと違うと私は思いますし、空っぽというのでもない。あえていうならば“何も書かれていない真っ白な紙”だと感じました。
“メリーゴーランド”、“ひまし油”、“天気売り”などの人々との出会いによって、ポーは人間が持つべき「感情」や「思い」を少しずつ理解していきます。
このポーの変化も粘着質な感じで、遭遇する出来事を逐一見て触って、相手の言葉を反芻して心にしまい込んでというような具合です。
悲惨な出来事、汚く賤しい言葉や仕打ち。ポーは川の流れとともに変わっていきます。川から海へ。水、うねり、流れ。その中で出会う者たち。
時代や場所も不明な物語の中、ポーが感じることをなぞりながら、第三部の老人達の心根にぐっときました。
説教臭いと感じた天気売りの言葉も、読みおえてみればポーと物語に対して必要なものだったと納得です。
うなぎ女たちの「スフスフ、スフスフ」という響きがいつまでも心に残っています。