英国怪奇小説界の第一人者、鬼才ハートリーの選び抜かれた傑作12編を収める日本オリジナル短編集です。著者の作品は古くからアンソロジーや雑誌で単独の短編を読む機会はありましたが、こうして一冊をまとめて読むと作家独特の技法や作風の全貌が窺い知れて非常に興味深かったです。本書を読んで気づいたのは、それぞれに物語としては一応の完結は迎えるのですが、最後に全ての疑問が解明される訳ではなく、必ず何処か不可解な謎が残されているという事です。物語によっては本当に唐突に続きを書かずに終わる物もありますので、えっ何それ?ととまどい消化不良を起こされる方も多くおられるでしょう。こういう書き方は一部の読者の不満を招いたに違いありませんが、それでも著者は気にせず信念を持って生涯一途にスタイルを貫き通された訳ですから、その姿勢には頑固な職人技の凄さを感じます。
『ポドロ島』:退屈な孤島にピクニックに出掛けた僕と親友の妻アンジェラと船頭のマリオ。アンジェラが失踪し凶事が起きたらしいのだが、真相は藪の中で無気味な余韻のみが残ります。『動く棺桶』:悪戯好きの主人に豪邸に招かれた客達が暗闇の中で鬼ごっこをさせられて疑心暗鬼に陥ります。動く棺桶機械等気味の悪い小道具が出て来て、最後は?なので想像の翼を思い切り広げて下さい。『毒壜』:田舎の屋敷へ休暇を過ごしに招待された男だったが、近所では残忍な動物殺しが頻発していた。人間の残忍な二面性に慄然とします。『W・S』:作家に奇妙な手紙が届き続け、次第に手紙の投函された土地が居住地へと近づいて来る。悪夢のようなサスペンスがじわりじわりと迫り来る戦慄の傑作です。
著者の得意技には、複数の自分が分裂し自らを滅ぼしに来る分身譚や、突然何故か扉が開かなくなりうろたえる場面、理解し難い奇妙で惨い死因があります。細部に複数の解釈が可能なリドル・ストーリー風怪奇幻想譚集をお楽しみ下さいね。