’00年「このミステリーがすごい!」海外編第1位に輝いた作品。
アメリカで’64年にペーパーバックで発表されたいわゆるパルプ・フィクションである。
時は1910年代の終わり、人口(ポップ)わずか1280人というアメリカ南部のとある田舎町の保安官、ニック・コーリーは悪党である。しかも自分では意識していないところがコワい。
最初は、自分の人生には心配事が多すぎて病気になりそうだ、などとうそぶいているが、日々の仕事は保安官という現在の公職に甘んじ、いいかげんだ。人妻との不倫をかさねる一方で元婚約者ともズルズル関係を引きずっている。
彼は売春宿にたむろするヒモの男たちを手にかけ、その罪を友人の保安官になすりつける。さらに不倫相手の夫を殺して黒人を犯人に仕立てあげるあたりからニックの狂気に拍車がかかる。ついに口うるさい妻や‘うすバカ’のその弟、厄介になってきた愛人たちをまとめて始末してしまおうと、画策を始める。
とにかく、けばけばしく扇情的な表紙、ザラ紙によるページそのままに、饒舌で下品な文体が暴走するアメリカン・パルプ・ノワールの世界が、「食らえ!」とばかりに展開する。日本で翻訳された本書の表紙はおとなしすぎるくらいだ。
なぜこんな作家が近年再評価され、作品が復刊されつつあるのか不思議だが、日本の戦後カストリ雑誌の作家たちのようにエログロな性描写に走ることなく、道徳や常識という概念をぶっ飛ばすほどの凶悪な犯罪や激しい暴力を正面から描くことにより、「人間とは、人生とは」などという疑問を、痛快に笑い飛ばすエネルギーがトンプスンの魅力なのではないだろうか。