極めて興味深い最新の研究成果を一般向けの新書という媒体で送り出してきたこの岩波新書「シリーズ日本近現代史」もついに『ポスト戦後社会』を迎えた。政治・経済・社会・文化・家族・・・。「戦後」的なるものが崩れ、変容していくその様を描き出すのはカルチュラル・スタディーズの吉見俊哉。このシリーズは歴史学者が担ってきたことを思えばこの人選は一見ちょっと奇異かもしれないがおそらく大成功だ。高度成長以後の「ポスト戦後」は描くのが難しい。どんな切り口で攻めるのか。どんな史料にあたれるのか。経済史家として高度成長期を追った武田晴人『高度成長』(岩波新書。同シリーズ第八巻)は高度経済成長と社会変容の関連についての分析が希薄だし、戦後60年目に刊行された中村政則『戦後史』(岩波新書)もまた前半はとても面白いものの後半80年代以降になってくるとどうしても出来事、事件の羅列になってしまい息切れの感が拭えない。「ポスト戦後」を歴史家が描くのはなかなか難しいようだ。そのような中、本書の著者吉見俊哉はカルチュラル・スタディーズや家族社会学、都市社会学、メディア論、地域社会研究などの分野の蓄積を駆使しつつ現在進行中の「戦後的なるもの」が崩れていく過程を生き生きと描き出すことに成功している。また、「戦後」の終焉の中から見えにくいけれどもかすかに新しい変革の芽が登場しつつあることも見逃さない。「私たちが生きているのはグローバル化の時代だが、このグローバル化は一枚岩的なものではなく、異なる複数の未来に向けられている。」「「グローバル」という地平には包摂されえない無数の人々の声や心情が、一体化する世界といかに結び付き、新しい社会のどんな歴史的主体を可能にしていくかに、21世紀の歴史は賭けられているのだ。」単に戦後的な「平和と民主主義」の尊重を叫ぶでもなく時代の変容を読み解きその先の構想・創造を訴えるその姿勢に共感する。