ひき逃げされた青年、横井亮太が、発見者のハンバーガーチェーンのマネジャー草野の前に、幽霊となって出現、彼と行動をともにする「青春小説」です。
丁寧に描きこまれた草野の日常生活に、亮太が自然に入ってゆき、バイトの女子高生に淡い恋をしたりしながら、死後の生活(ボーナス・トラック)を楽しんでゆきます。ひき逃げ犯人を捜したいという恨みや悔しさで幽霊になるのでしたら、ミステリとして犯人探索につながってゆくのでしょうが、不思議とその面は弱く、いきいきと等身大の青春群像が描かれてゆく感じです。
亮太は食事もできるし、草野と毎晩格闘ゲームに熱中します。もうひとり幽霊の見える店員、南があらわれてからは、三人の新しい生活になり、ちょっとだけ不思議な日常が、当たり前のように続きます。大きなドラマや展開、犯罪などはなく、犯人が見つかるのもたまたま・・・
これがファンタジーの賞になったというのがうなずけた点はふたつです。
ひとつは、現実的な感情や動機で動くミステリだったら、幽霊とのこんな平穏な日常を描くわけはなく、もっとせつなく、もっと悔しく、犯人追跡を盛り上げてゆくと思うのです。そういう意味では、現実とすこし温度の違う「もうひとつの現実」を描きだした点。
そしてもうひとつは、ラストです。電子世界と霊の世界は、近いところにあるのかもしれず、慰めに満ちた世界観がすっとさしこまれています。
しかしこんなにリアリズムなファンタジー小説もあるんだな、と感心しました。