頑固一徹の靴職人・園田栄造と、川畑隼人(小6)の心が結びついていくようすが、爽やかな読後感を誘う物語です。語り口、テーマの採り方共に、前作の『死日記』からは驚くほどの変貌です。
栄造は口の悪い、頑固じじい。赤いアルファロメオを転がし、ファッションだって、いかしたスタイルでキメています。
たまたま、弟の直也の絵画教室が、栄造のアトリエと同じビルだったことから、二人はゆるゆると、お互いに必要な人になっていきます。あの日、あの時、あの場所での出会いが、人生のベクトルを変えることって、きっと誰にでもあると思うのです。その時、二人はそれぞれに、抱えている問題がありました。隼人は直也と共に、母の死を乗り越えるという、栄造は、思い通りに靴を造れなくなったという、問題でした。
たった6歳の直也が、母親の死をいつまでも理解できないのは仕方ない。弟の面倒を見る隼人が、ぎりぎりの状態で踏ん張っているのを見かねて「兄貴だからっていっていっつも我慢する必要はないさ」と慰めるところでは、ほっと胸をなで下ろしました。
一方、栄造の靴造りの問題は、顧客・小池と隼人の作戦によって、徐々に解決の方向に向かい始めるのでした。いい靴を造ることは、革屋、木型屋、ヒール屋皆の喜びなんだという小池の言葉に、栄造は驚愕し、心を決め、仕事に打ち込むのでした。
隼人を巡る問題に付きあっていくうちに、アトリエの人々とも付き合いが自然と始まってしまいました。口の悪さは直らなかったけれど。
最終章はたった2ページ。明るく穏やかな場面と会話に、栄造と隼人、二人ともが何事かをやり遂げた満足感を内に秘めていることが窺えます。栄造さん、今では“宝物”なんかできちゃって、作品の最初の方と同じ人とは思えない。じんわりと涙が浮かんできて仕方ありませんでした。