「難破船の水夫のように、生活の孤独のうえに絶望した目をさまよわせつつ、
はるか水平線の靄のうちに白い帆のあらわれるのをもとめていた」(本文より)
現実世界とうまく折りあいをつけられない女性が、夢の世界に生きて死んでいく物語。
ボヴァリー夫人、エマみたいな人って、けっこう多いのではないかと思う。
彼女の場合、逃げる先は恋とぜいたくな買い物。
それが、人によっては宗教だったり二次元、ネット世界だったりするわけで。
人生はたいていが思うようにはいかないが、それにうまく折り合いをつけるか、あきらめるか、別の世界に逃避するか、それは人それぞれの選択である。
逃げる選択、それは先の見えない霧の道を走り続けるようなものだろうか。
帰ることもできなくて、ひたすら走って、最後は崖から落ちてしまうような危うさがある。
エマのすごいところは、徹底的に現実から逃げ切ったところではないかと思う。
フローベール自身もまた、ほとんど外に出ることなく、小説を書き続けた。
冷静なひきこもりが美しい文章を書くと、こうした作品になるのかもしれない。