19世紀末の物理学の大転換をボルツマンを中心にして描いています。私は物理学の専門家でもなく、むしろ思想的な発展に興味があって本書を読みましたが、期待に応えてくれる内容でした。本書で紹介されているボルツマンの成し遂げた思想的進歩は大きく分けて2つあり、極めて大雑把に言えば、当時巨大な影響力を誇ったマッハの、実験を基にした知覚可能な事実同士を関係づけることのみが科学に許されるとする感覚一元論に対して、直接には知覚されない「原子」を想定して、その力学から実験事実に関する「定量的」計算を導くことで真っ向から対立し、抽象的思考を基礎に現象を解明しようとする「理論」物理学を誕生させたこと、古代から続いてきた絶対的真理、現象の完全な解明という物理学の伝統を恐れずに統計、確率の概念を導入して物理学の新たなステージを拓いた、ということだと思います。もちろん実際に彼がそこまで考えていたわけではなく、計算をゴリ押すためになんでも使ったというのが真相のようですが、著者は科学の進歩はそのように起こる、そしてその点こそが彼の真の優れたところなのだと正しく分析しています。ここのへんを読むと実際に研究の現場にいる方は親近感とやる気が湧くと思います笑。
またマクスウェル、ボルツマン、ギッブスの科学に対する考え方の違いをやや詳しく分析していますが、それぞれイギリス、大陸、アメリカの考え方を代表しているようで興味深かったです。またプランク、アインシュタインへのボルツマンの影響等もやや詳しく述べられており、様々な点に興味を持って読めると思います。