小説のタイトルとしてはとても気になるもので,書店で新潮4月号の表紙を飾っていた時にも手に取ってみたりした。
「サーチエンジン・システムクラッシュ」の主人公である「町村」と同じ名前の人物が30年以上前に借りた本を返しに行く「返却」は,その設定のシンプルさとはまた違った,幻暈を覚えるような小旅行である。「サーチエンジン〜」でもそうであったように,町村は今回もまた「あったはずの場所」を探して彷徨ってしまうのだが,今回のほうが読後感としては心地よさがあったりした。
また,表題の「ボブディラン〜」においては,2001年9月1日に起きた歌舞伎町ビル火災から11日間の,主人公に訪れた「世界の変容」を描いている。世界の変容については脳内物質における分泌の問題によって起こることがあるが,ここしばらくの社会情勢や天変地異によって実際に起きているとされているようである。それは,1995年に起きた地下鉄サリン事件と阪神淡路大震災の前後であったり,2001年のアメリカ本土へのテロ事件の前後であったり,2011年の東日本大震災の前後であったりするわけですが,そろそろ私たちを取り巻く環境に対して,私たち自身がついていけなくなっていると実感させられることも多いこのごろです。
著者は,いつものエッセイにみられるような軽快な文章と,舞台にのせたときのあの不思議な感じをミックスさせた本書を私たちに示してくれている。これが,2010年代の新しい枠組みであったりルールであったりするような気がしてならないのです。「サーチエンジン〜」を読んでから読むのもよし,本書を読んでから「サーチエンジン〜」を読むもよし。あれから11年たって,一緒に読むことができたのも幸運だったと思うのです。