よく出来た本ではないと思う。ストーリーも刺激的なだけ。なのに今でも心に残るのは作者の悲鳴に近い心の叫びを聞いてしまったから。
主人公は表面の行為とは裏腹に、限りなく精神的な愛を求める女性。小説では性愛を中心に書かれているけれど、この主人公は純粋な求道者だと思う。「人は幻想なしに生きられるか」確か小説の中でこう言ってたんじゃないかな。
野獣くんはなぜ主人公に指一本も触れずに命を絶ったのか、野獣くんもまた純粋な求道者だったから。異性に甘える事を自分に禁じた。作者が野獣くんに取らせた行動は作者の祈りだっただろうと思う。
誰もが救われたいと思いながら生きている。救われている状態を人は皆どこかで知っていて、その幻を追い求めて全ての人は生きているのかもしれない。
多くの人がそれを恋愛の中に見出そうとする。沢山の男性と関わりながら、主人公を本気で愛する男性も現れるが、主人公は魂の接点を見出せない。主人公はその鋭い感受性で、相手が純粋な自分を見ているのではないことに気がついている。人が幻想ににまみれて生きていることに絶望しながら、主人公も幻想の中でもがき苦しんでいる。
人と人はどこで本当に出会うことができるんだろう。自分って何?他者って何?どこを歩けば喜びに通じる道に出るの?私は幻想なしで生きられるようになる?それとも主人公も私もただ病んでいるだけなんだろうか。
主人公の真実に生きようとする姿勢(それは行為とは全く関係がないと思う)は作者そのものだと思うんだけど、ここまで真剣に苦悩する作家は少ない。小説というよりもこの作者の真摯な姿に読んだ当時共感を覚えた。