映画『愛と哀しみのボレロ』をご存じでしょうか。
登場人物の一人が、パリに来ていたナチスの音楽隊長(カラヤンがモデルと言われています)と出会い、彼の子を妊娠します。戦争が終わってパリが解放されると、敵に身体を許した女性と非難され、頭を丸刈りにされて故郷に帰りました。子どもは父親なしで育てられますが、これは決して「戦争の悲惨さを訴えたフィクション」ではありません。
ドイツ軍が撤退した後に残されたフランス人女性に、人々が寄ってたかって非難の言葉を浴びせる。そんな史実の中から生まれたのが、『ボッシュの子』です。
著者のジョジアーヌ・クリュゲールは、1942年、ドイツ兵士とフランス人女性の間に生まれました。戦争が終わったあと、母は丸刈りにされる集会に呼び出されずに済みましたが、祖母と母と著者の女ばかりの家族は、陰湿な差別にさらされました。無邪気な少女時代が終わり、自分の出生の秘密をおぼろげに知るようになった著者は、不安な人生を送るようになりました。
別の土地に移り、新しい友人ができても、「自分はふつうの子どもではない」という思いに苦しめられます。
30歳を過ぎ、一目会いたいと父を捜したときには既に遅く、三年前に亡くなったことを告げられます。ドイツに帰って家庭を持った父の子どもたち―著者の義兄弟―に招かれ、未知の家族と対面をはたした著者は、次のように記しています。
「完全に受け入れられたという実感、ついに自分のあるべき場所に
たどり着けたという幸福感に浸っていた」
「呪われた子」、「恥辱の子」、「ボッシュ(ドイツ人)の子」と蔑まれ、戦後60年間タブー視された沈黙を破り、著者は、2006年にこの半自叙伝を自主出版しました。
著者と同じ境遇にいるフランス人は、推定20万人といわれています。定年を過ぎた著者たちの自分探しは、はじまったばかりです。