著者は、カナダの大学で教鞭をとる気鋭の文化心理学者。この本は、タイトル的には、ビジネスマン向けの「人間関係ハウツー本」といった印象ですが、実際の中身は、文化心理学の入門書といえます。(私のように)「文化心理学」という言葉を初めて聞くような読者に向けて、この学問の魅力をわかりやすく、そしていきいきと語っています。
たとえば私たちは、外国人と話したときや、メディアで外国のニュースを見たときに「この人たちは、日本人と何かがちがう」と感じることがあります。同じものを見ているはずなのに、どこか感じ方がちがうようだ、と。著者が繰り返し強調しているのは、「私たちはあるものをぼんやり見ているわけではない。自分の視界に入るすべての視覚情報の中から、自分が重要だと思うものを選び取って見ているのだ」という前提です。こうした「ものの見え方」は、「こころのしくみ」と深い関係があり、その「こころ」は(自分のまわりの)文化と切り離せない・・・というのが、著者の主張です。そして「文化心理学」とは、私たち抱く「この人たちとは、どこががちがう」という漠然とした印象について、心理学的な実験を重ねることで、ひとつひとつ科学的に解き明かそうとする学問のようです。
本書では、欧米文化圏と東アジア文化圏を例にとり、文化のちがいが、「こころのしくみ」や「ものの見え方」にどのように影響を与えているのか、わかりやすく解き明かしていきます。本書では取り上げられていませんが、イスラム文化圏と比較しても興味深い結果が得られるでしょうし、同じ東アジア文化圏内でも、日中韓の間には微妙な違いもあるのかもしれません。日米、日中、日韓、日露・・・さまざまな国との関係がニュースを賑わせている今だからこそ、お互いの立場からの「ものの見えかた」に思いをはせるスタンスに立つ「文化心理学」には、懐の深さと、未来に向けた広がりを感じます。ぜひ、ご一読を勧めます。
ひとつだけ注文をつけたいのは、本書のタイトル。編集部としては、ビジネスマン向けの軽い読み物という位置づけにしたかったのでしょうが、どうも的が外れているように思えてなりません。人間関係の即効薬を求めて読む人は、肩すかしを食らうかもしれませんし、文化と「こころ」の関係に興味をもつ人は、このあからさまなタイトルのせいで、手に取るのをためらうかもしれません。
繰り返しますが、タイトルのハンデを補ってあまりある好著。ぜひご一読を。