マクロな視点でナチスのユダヤ人政策の過程を書いた本書は、ナチスが強権性を強めるにつれ、始めは財産収奪など社会からの追放だった差別政策が、やがてゲットーなどの物理的隔離、ついに絶滅へと進んでいく様子を冷静に記述している。個別の悲劇は日本でも紹介されることは多いが、ナチスの政策決定についてはヴァンゼー会議が取り上げられる程度で、歴史を一貫して振り返った本はあまりない。著者の前作「武装SS」も組織図や拡大の経緯が書き込まれてよかったが、本書も丁寧に政策史を追ったほか、収容所での行為も多く記されている。ホロコーストはドイツの行為だったのでドイツ国内での被害者が多いのかと思っていたのが、著者作成の表を見るとポーランド在住者が半分を占めていることに気づいた。
縦書きの本文に対し、人物解説を横組みにしたほか、年表が付記され読みやすい。また、文末に独米で議論された「独ソ戦でホロコーストになってしまったのか、当初からナチスは絶滅を意図していたのか」の論争やホロコーストへのヒトラーの関与の問題など、簡潔なホロコースト研究史の推移が紹介されており、日本国内だけで議論されがちなホロコースト論について、広い視野を与えてくれる。著者は文末で「書き足りないことが多すぎる」としているが、新書の読者にとっては適切な内容、分量になっていると思う。