線路脇のアパートに小鳥と住み、長年変わることなく日々を過ごしてきた67歳の生真面目な男の話である。傍から見たら退屈な人生かもしれない。が、彼には勤続40年の仕事が人生そのものであり、全てであったはず。ところが、大事な定年退職の日に大遅刻したあげく、混乱して職場から逃げ出してしまうのである。
若い人には、無理にお勧めできない。映画から何かを得たいと期待が大きい方にも向かないかもしれない。これは、人生半ばを過ぎてこそ実感できる大人の作品だからである。
予測不可能な数々の出来事に遭遇した時のホルテンさんの穏やかな困り顔がいい。特に可笑しかったのは、空港での事件! 台詞やアクションではなくシチュエーションで多くを語る作品なので、散りばめられたユーモアなど見逃さないように観たい。思わぬメイド・イン・ジャパンも発見できる。
最後に出会った不思議な老人は、47億年も宇宙を旅して来てまだ旅の途中だという隕石を見せて、「何事にも遅すぎることは決してない」と告げる。最初は、運転士の制服を着て出かけたホルテンさん。今まで身に着けてきたものを少しずつ脱ぎ捨てていくように、冒険の途中で、愛用のパイプを失くし、帽子を置き忘れ、肩の階級章を自ら外して、プールで泳いだ後には、何故かハイヒール?
そして、ジャンプ!
67歳の男の物語である。老いや死の気配も漂わせつつ、勇気を出して新しい一歩を踏み出した歩みが力強い。