あまりに独特な「火星」。
その理由は、高速なテンポ、そしてアクセントの重視である。
小澤はこの5拍子「12345」の、1に強いアクセント、4にやや強いアクセントを与え、それを「火星」全体にわたって実施した。
こうすることで、「タ!カタタンタン」「タン!タンタン」という「ふたこぶらくだ」構造がはっきりしてくる。
それぞれのこぶは、リズムがアクセントに向かって密集している。「詰まった感じ」が、アクセントをより浮き出させている。
これにより、突き上げるような、非常に野趣のある「火星」となった。
この盤以外の演奏ではこれほどアクセントをつけているのは聴かない。それは積極的な意味としてとらえるならば、のっぺりした5拍子により「感情のない暴力」のような不気味さを演出しようとするものである。
これに対して小澤盤は、アクセントによって、「不気味さ」を捨て、「はっきりした闘争心」のような表現を生んだ。「遠くから迫力を鑑賞する戦争」ではなく、「目の前で殺し合っている戦争」である。
第2次世界大戦前夜の中国で生まれ、その空気を吸っていた小澤ゆえに、そのリアリティが込められているのではないかと思う。
最大の強奏に至る直前の、嵐の前の静けさのような部分(3:04)があるが、この盤ではそこが面白い。スネアドラムが弱音でありながらかなりの緊張感を表現し、「今まさに噛みつかんとうなるライオンの吐息」のように鳴り響く。静寂が内に強い力を秘めているというこの表現は、アクセントにより生まれている。
さて、「金星」の冒頭は特筆に値する。この静寂感は一体なんだ。ビブラートのない澄んだ音色が、静寂の中に消えていく。まるで時間を止めてしまうかのようだ。この表現は他では聴けないものではないかと思う。
「土星」のラストも他にはない。年を取り、安らかに息を引き取る、その心の平安を絶妙のディミヌエンドにより表現している。
「天王星」は一番の見せ場のクライマックス、パイプオルガンのグリッサンドが入る部分の炸裂感が見事。