『野生時代』に2007年から2008年に掛けて掲載されていた作品の単行本化になります.
なお,単行本化に際して加筆が行われており,登場人物や設定などかなり違っています.
物語は何気ない小学生たちの日常,家族や謎のお姉さんたちのやり取りが語られつつも,
次々に起きる不思議なできごとに少しの疑問と不安,そして期待を抱かせられて進みます.
著者の作品に多い京都や大学生は出てこず,ドタバタや独特の言い回しも全くありませんが,
おませで少しずれたところのある少年の物言いなど,やはり節々に『らしさ』は感じられます.
また,研究と称しての町の探検,死や時間の流れに漠然とした恐怖を語り合う様子など,
子供たちの会話や考えていそうな事が丁寧に描かれ,思わず懐かしさを覚えてしまいます.
これ以外にも少年のお父さんがとてもいい存在となっており,少年との信頼関係はもちろん,
彼を見守り,時として投げ掛ける『言葉』はとても素敵で暖かみの感じられるものばかりです.
王道の話運びで謎の真相もハッキリ明かされませんが,それはこの物語においては些細な事.
切なさと寂しさが漂いながらも,ひと夏を経て少しだけ大人へと近づいた少年は凛々しく映り,
小さな恋とともに希望の感じられるエピローグは,爽やかで心地の良い読後感を残してくれます.
後は余談ですがカバー以外にも表紙や目次,奥付にまで居るペンギンがかわいくていいですね.