クローズなチャットルームで知り合った6人の男女。それぞれ星の名をハンドルネームにする彼らが、お互いの本名も日常を全く知らないまま、一人称ミステリの原稿を出し合い、主宰者カストルがまとめて紙媒体の同人誌を出しつづける、というのが大筋です。
女子高生、学生、主婦、三人の作品が並べられて、あいまに、チャットルームでの感想の述べあいが入り、一見、現実とフィクション(これも実体験をもとにしたものではあるのですが)はきれいに見分けがつくかのように思われますが、三作目あたりから、作中にチャットルームでの語りが入りこみ、どこからどこまでが作品で、どこからが外の現実なのかが分かりにくくなり、「語り」がまさに「騙り」の迷宮に入ってゆきます。
「最終話」では、6人がついにオフ会をして、顔を合わせる段取りになりますが、会員のひとりと目される若い女性の自殺をめぐって、これまでの作品のあちこちの断片がパズルのように合わさり、その謎の真相が、そしてこれまでの読者の思い込みが、映画のセットがバタバタと倒れ、たたまれてゆくように、崩され、だれがだれだったのか、めくるめく混乱の中に立たされたまま、事件はせつない余韻とともに閉じてゆきます。
現実と、メタ現実であるネットの小説の世界を、作者のテクニックはみごとに入れ替え、反転させる力わざを見せてくれました。
登場人物たちの得た感慨を共有するだけでなく、読者としては、この現実の複雑な構造と心理の迷宮に立ちすくむ思いです。
彼らが現実を知り、現実にもどったあとで、読者はフィクションである彼らの物語を閉じ、さらに自分の現実にもどってゆきます。
叙述ミステリの妙味をかるやかな筆致の中に感得させる意欲作です。