少女の成長物語として、或いは外国人としての生活体験記として、共感できる内容があります。一方で、国王による上からの改革、革命イラン、戦争という特殊な社会を内部から描いた、貴重な情報をもたらしてくれます。しかもイラン人が書いた漫画ということで、様々な側面を持つ、得がたい作品となっていてお奨めです。
注意したいのは、作者はカージャル朝国王の血筋を引く、非常に特殊な環境に育った少女だという点です。祖父は首相を務め、父親は技術系会社員でありながらBBC放送を理解し、キャデラックを持ち、住み込みの家政婦がいます。作者はフランス語で教育をする学校に通い、革命後ウィーンに留学します。革命前は家族でスペイン旅行に出ています。
日本の読者が作者に共感しやすいのは、作者が欧米的価値観の家庭で育ったため、欧米的価値観の持ち主としてイラン社会を見ている点にあります。革命後のイランは、戦時中の日本の特高のような「革命防衛隊」に抑圧されているものとして描かれます。戦時日本や旧共産圏社会のような印象を受けるでしょう。問題は、多くの平均的なイラン人にとって、イラン社会が「同じように見えているのか」という点です。2005年の大統領選挙で保守派が圧勝したように、イラン人の多くは意外に革命後の政権を支持しています。革命前40%程度と言われた文盲率が80%に上昇し、義務教育が全土・全階級に行き届くようになったなど、民衆に支持されている面もあります。
マルジの家庭は、戦前日本の華族に比定できると言えます。国民所得が月100ドル程度の国で、自由に外国へいける人々は、民衆から妬まれる立場にあるわけです。本書を読むとき、このような側面もあることを考えつつ読むことも、大事かと思います。