「映画芸術」誌の最新号を読んでいて、ブルース・サーティスの訃報を知り、驚いた。いつ亡くなっていたんだろうとネットで確認したら、今年の2月に既に亡くなっていた。
迂闊だった、全然、当方の記憶にはなかった事だった。享年74歳、まだまだお若い年齢だ。
サーティスの名を初めて記憶したのは、恐らく多くの映画ファンの方々同様、ドン・シーゲルの「ダーティハリー」である。
“プリンス・オブ・ダークネス”との異名通り、ハリーとスコルピオとのビルの屋上を介しての銃撃戦やハリーの身代金を持ってのサンフランシスコ市街地の激走、そしてあの有名なスタジアムでの空撮ワン・カットと、とにかく夜間や暗闇での構図や抑えたライティングが超クールであった事を鮮明に覚えている。
以後、サーティスは、「レニー・ブルース」のようなモノクロ映像でその才気を遺憾なく発揮する事になるのだが、やはり、イーストウッドとタッグを組んだ映画たちが印象深いな。
「恐怖のメロディ」から今作までの14作、マルペソ・カンパニーの一員として、イーストウッドの片腕として幸福な関係、幸福な時代であったと確信するが、以下は、名コンビの代表作として謹んで作品レビューを捧げたい。
決して積雪が溶ける事などないと思わせる荒涼とした山々、もはや朽ちかける間際の最後の煌きの如き紅葉、晩秋の大自然を捉えた巻頭のクレジット・タイトルだけで、既存DVD版より明らかに向上したと思えるクオリティの高さ。
以下、一攫千金を夢みる貧しき人びとの慎ましやかな日常と生活感を、ゴールドラッシュ最中の開拓時代のアメリカ中西部の雄大な大地を、そして、日差しの強さは感じられないものの鮮やかな陽光の暖かさと肌に当たるひろひりとした風の冷たさがダイレクトに伝わってくるような感覚を美しく映し出すブルース・サーティス。
渓谷を覆う雪の白さと室内での効果的な影のコントラストの妙。正にBDでこそ味わえるイーストウッドとの名コンビから生まれた様々な傑作たちの集大成と思える優れた仕事だ。
これは、可憐な少女の涙と共に神に込められた思いの体現者としての“名無しの牧師(ガンマン)”の後日談。もしくは、イーストウッドによるもうひとつの「シェーン」。
ハードボイルドにしてリリカル。誰もが胸すく勧善懲悪映画であり、ケレン味溢れる西部劇であり、心に残る神話的物語にして、イーストウッド映画の真髄に触れられる傑作。
西部劇ファンなら往年の悪役ジョン・ラッセルを、アクション映画ファンなら007シリーズのジョーズことリチャード・キールを、SF映画ファンなら「遊星からの物体X」のリチャード・ダイサートとチャールズ・ハラハンの顔を、敵役の中に見つけてニヤリとする事だろう。
自分は、映画が始まりクレジット・タイトルで撮影監督が誰なのかをチェックし、名カメラマンが起用されている事を知ると、映画への期待が倍増、胸膨らませてその仕事ぶりを確認したものだった。
またひとり、名手が逝ってしまい、その名前をクレジットでチェック出来なくなる事は残念でならない。
ご冥福をお祈りします。