アシュケナージの指揮者としてのキャリアはもう20年以上になるが、NHK交響楽団の音楽監督となって以降、そのレパートリーは変化しているようだ。これまではネーム・ヴァリューのあまり大きくない作曲家、あるいは作品の録音が多くあり、ドイツ音楽の本流のようなジャンルはあまり多くはなかった。
しかし、NHK交響楽団というドイツ・オーストリア系の音楽の経験がほとんどであるオーケストラを振るに当たって、そこにベートーヴェンを持ってくると言うのは、アシュケナージのキャリアとしてそこに至るタイミングと重なったとも感じられる。
そして第9交響曲のライヴ録音がリリースされることになったのだろう。
演奏であるが、今までのアシュケナージのスタイルと違った顔が出ていて驚かされる。
やや早めのテンポ設定はいつも通りであるが、元来の透明感溢れる瑞々しい指揮とは違い、音楽の色合いが深刻で、内省的な響きに満ち、緊迫感が強い。
それはベートーヴェンの第9だから、という以上にアシュケナージのベートーヴェンへの距離感そのものの変化と考えたほうが面白いだろう。
1,2楽章の緊密な構成感、3楽章のクールで控えめな歌による内面の掘り下げ、そして終楽章もリズム感豊かでありながら、均質な密度を保っている。
と、演奏はなかなか一興をそそるのだが、このディスクの問題点は録音にある。
NHKホールという場所の問題なのか、録音セッションの不備によるものかわからないが、音がこもりがちで、音色が曇ってしまうのだ。エクストン特有のハイブリッド仕様であるが、仕様云々の前にそもそもの録音レベルが水準に達しないのは残念である。できれば、あらためてスタジオで収録しなおしてほしいものだ。演奏がもったいない。