ハスキルfanさんが御発言のように、以前と比べて戦時中のフルトヴェングラーの演奏の録音状態がよくなっています。ワルターがコロンビア交響楽団で、上質な録音を残したにくらべて、フルトヴェングラーの録音状態に残念に思っていた人も満足すると思います。
『吉祥寺の自宅で戦時中のコンサート、1943年のベートーベンの第7や1942年に演奏されたシューベルトの第9を聴いたあと、丸山がポツリと漏らした。
「『明日がない』、『これが最後のコンサートかもしれない』と覚悟したとき、人間はこんな音楽をやるんだねえ。(略)人類の音楽は、フルトヴェングラー戦時中の演奏をもってその頂点とするんじゃないだろうか。戦後の録音、とくにスタジオで作ったLPにはこの凄みが欠けるです。」
言われた私は、思わず丸山に問いかけた。
「でもあんな悲劇的な状況と悲惨な経験を抜きに最高の演奏が生まれないとしたら、音楽はとはいったい何なのでしょう。」短い沈黙があった。丸山の言葉は私の問いかけに対する答えではなかったような気もする。
「人間の本質にかかわるテーマですね。」(略)静かな、何かにじっと耐えているような丸山の口調であった。』(中野雄著 「丸山眞男音楽の対話」文春新書P233-234)