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これほど斬新で魅力的な演奏が、金沢という日本の一地方都市から世界に向けて発信されうるということを、一体誰が予想しえただろう?
金聖響の解釈は、明確で鮮烈だ。すなわち、徹底的に薄く軽く鋭敏に。旧来の威圧的な重さと押し付けるような厚さ、という世界からは遠く離れている。比喩的に言えば、昔のベートーヴェンが、どこか説教臭くて精神論的で汗臭くオヤジっぽかったのに較べると、このベートーヴェンは、さわやかで涼しげな眼差しと、優雅でしなやかな体つきを持った若者のように美しい。
ノンヴィブラート奏法を駆使した弦の表情は風のように柔らかく、絹のヴェールのように透き通っている。力まない金管は多様な音のパレットを持っている。室内楽的な求心力でブレンドされた響きには、親密な暖かさがある。そして強烈なダイナミクス、リズムの鋭敏さは、一小節ごとに目からウロコのおもしろさに満ちている。
たとえば、第2番の第3楽章のトリオのダイナミクスの変化、第4楽章コーダの強弱の目覚しいほどの強烈な対照! 第7番はさらにおもしろい。最初の和音から、まったく新しい音楽を聴くことができる。いつものあの重々しい和音を期待していると、とんでもない奇襲をくらうはめになるだろう。いままでの演奏ではまったく聴こえていなかった音が、そこかしこに散りばめられている。
古楽的な奏法は、もはや一部の専門家の独占物ではない。どの指揮者もオーケストラも、当然の選択肢の一つとして消化し、自分のものとする時代がやってきたということを、このディスクは如実に示している。
若き俊英指揮者、金聖響の名を音楽ファンの脳裏に強烈に刻み付ける、記念すべき1枚の登場である。(林田直樹)
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