ベートーヴェンの完成した唯一のヴァイオリン協奏曲は古今東西並ぶもののない偉大な曲である。その美しさ、崇高さ、雄大さはまさにヴァイオリン協奏曲の王者にふさわしい風格を備えている。この曲をヨアヒムが復活させてから幾度となく演奏されてきたが、この曲の価値に値する演奏がどれだけあったかは定かではない。現在もヴァイオリニストの重要なレパートリーとなっているが、果たして満足できる演奏があるだろうか。シェリング二度目のこの録音は私にとっては素晴らしい演奏であると思う。過度な表情はさけて作品をありのままに表現しようとする態度が見受けられる。第一楽章の雄大で、崇高な表現、下属調にあたる第二楽章の安らぎ、清潔に満ちた表現、第三楽章の華やかさ、どれも満足のいくものである。人によってはおとなしすぎるつまらない演奏と感じる方もいるかもしれないが、この協奏曲には演奏者の誇示は必要ないのである。なぜなら、この曲にはそのようなつまらない議論を遥かに超えた包容力が備わっているからである。