新書版でページ数は少ないのですが、最新の研究成果を取り入れたベートーヴェンの伝記としては最高水準のものです。著者は、ベートーヴェンの不滅の恋人がアントーニア・ブレンターノ夫人であることを1950年代に世界で最初に主張し、その後、メイナード・ソロモンらの研究により裏付けられ、今日では通説となっています。著者の強みは長年にわたって現地調査を重ね原資料に直接あたっていることで、著者の研究がヨーロッパでも評価されてドイツ語訳が出版されたのも当然といえるでしょう。
昨年末、著者は惜しくも亡くなられましたが、もう少し生きることが許されていれば、浩瀚な伝記を執筆されたであろうと思われ残念でなりません。
ベートーヴェンの伝記は弟子とされるシンドラーの伝記が後世まで強い影響を及ぼし、有名なロマン・ロランの「ベートヴェンの生涯」にまでその影響が及んでいます。しかし、近年の研究によりシンドラーの伝記が事実を都合よく歪曲した部分が多いことが判明し(著書が指摘するようにシンドラーは、自分の見解にあわせるために勝手に貴重な資料を破棄することまでしています)、ベートーヴェンの実像はソロモンや著者によってようやく明らかにされつつあるといったところでしょうか。
ともあれ、ベートーヴェンに関心のある人は、この著書を読まずしてベートーヴェンを語ることはできない名著です。