ベーシック・インカムという考えは、奇異なものではない。それは新自由主義の権化フリードマンからポストモダン左翼の旗手ネグリにまで見られる幅広い思想であり、その起源をたどれば、千年以上昔の日本や中国の律令国家にまでさかのぼりうる、普遍的な考え方なのである。シングルマザーや障害者の社会運動、フェミニズムや緑の党にも怠りなく目配せしながら、筆者が強調するのは、こうしたベーシック・インカム概念に含まれている共通基盤についてであるといえる。
しかし、一方でベーシック・インカムという考えは、従来の福祉国家のあり方からの断絶、人々の認識におけるパラダイムチェンジを要求するものでもある。「ベーシック・インカムはすべての人に、個人単位で、稼働能力調査や資力調査を行わずに無条件で給付される」(p.242)とするならば、これまで私たちが抱いてきた「労働観」を抜本的に変革しない限り、それが社会に根づくことはないように思える代物なのである。単なる福祉国家の補完政策ではないベーシック・インカムのこうした側面、筆者はこの部分に深い思い入れを抱いているようだが、それについての掘り下げは、本書において不十分にしか行われていないと感じた。
たぶん、色々な素材を詰め込みすぎたことと筆者自身の立ち位置の不明確さが、この本の内容をわかりにくくしているのだと思う(だから、章ごとの「まとめ」やQ&Aがついているわけだ)。しかしこの点を差し引いても、ベーシック・インカムに関する最初の一冊としては、この本はおおいに読む価値があると感じた。というのも、ベーシック・インカムとはいまだ形成途上の政策構想だからであり、今の時点での実現可能性よりも、社会的合意への模索が必要なものだからである。