ブラッド・ピット主演で映画化されて再評価された早世の作家フィッツジェラルドの話題の短編小説です。本編は著者の絶賛された名作「グレート・ギャツビー」のイメージに合わないという理由から、これまで翻訳を見送られて来たとの事です。80歳の老人の肉体で生まれ次第に若返って行くという荒唐無稽なSFタッチの物語が日本の編者から軽視された結果らしいです。過ぎた事は仕方ないとして、こうして1922年発表から長い時を経て映画化されたのがきっかけで知られざる著者の面白く軽妙な一面を味わえたのは喜ばしい事だと思います。本書は大きくは現代のお伽噺的な性格の物語といえます。最初の誕生シーンの映画版のダイジェストをちらりと見ますと痩せ衰えた老人のグロテスクな姿がリアルに強調されていましたが、原作はそれ程でもなく生まれたばかりで既に分別を備えた大人である点が周囲の困惑を招いたり、老人に子供の服装をさせようとする不自然さに苦笑を誘われたりといったコメディー・タッチに全編が包まれています。やがて、若者に物足りなさを感じる美しい女性と出会って恋に落ち幸せな時を迎えるのですが・・・・。著者は本書の自作解説で「人生の一番良い時が最初にやって来て、一番悪い時が最後に来るのは辛いよなあというマーク・トゥエインの発言をヒントにして、それならばと逆さまにしてみた」と語られていますが、本書を読むと人生の喜びの一瞬は短く夢幻のようで、皮肉にも肉体が若返っても精神が幼くなって行き自分がやりたいと思った事が実現出来なくなり、どの人生に於いても息子たち若い世代との精神的な隔たりは避けられなくて、人は結局果てしない願望を抱きながらも志半ばで人生を終えなければならないのだという哀しい普遍的な真実に気づかせてくれます。本書は決して教訓的ではなく滑稽さの中にさり気なく人生の哀しみを忍ばせた佳作として長く人々の記憶に残るだろうと思います。