家族を失う痛みをよく知る男が、また新たな家族の喪失を回避するためにギャング・ファミリー間の抗争に終止符を打とうとする。そのために彼がみずからに下した苦渋の決断とは…。
開巻から印象深いヒターノの音楽とイスラム音楽の競演が繰り広げられます。スペイン南部アンダルシアの乾いた大地に脈打ってきた民族伝統の音楽は、限りない力強さで観る者に迫ってきます。そうした魅力的な音楽をたっぷりと余すところなく随所に織り込みながら、娘を失った心の傷にいまも打ちひしがれたままの男・カコの静かでやさしく哀しい物語が展開されていきます。
撮影に際して手持ちカメラを徹底して多用することで、乾いたドキュメンタリー的で(実際は計算しつくしているはずなのに効果としては)即興的な絵作りを進めるトニー・ガトリフ監督の手腕はなかなかのものです。
また主人公カコが横たわっている「あるシーン」では、全体像を見せる俯瞰ショットを意図的に排除し、クロース・アップのショットを畳み掛けることで観る者の心を不安へと駆り立てる映像演出をとっています。水際立ったお見事な演出といわざるをえません。
突き抜けたかのような音楽とこだわりを込めた映像。この二つを総合しながら観る者の心を強く打ち震わせる。これは極めて映画的な映画といえる作品です。
なお、スペイン語では「venir」(来る)と「vengar」(復讐する)という二つの動詞の一人称単数・直説法現在形が同じ「vengo」となります。タイトルの「Vengo」とは「私は来る(この場合は「来た」という完了の意味もあります)」と!「私は復讐する」という二つの意味をかけています。