天使は愛らしい少女でもなければ子供でもない。黒い服を着たおっさん。
天使はそこらじゅうにいる。ベルリンの図書館で、電車の中で、街角で、タクシーで映画の撮影所で、ベルリンの幾多の人々の心の声にそっと耳を傾ける。それは希望、絶望、いたわり、憎しみ。そして天使はときどき肩を抱いてくれる。モノクロームの画面からは天使の視点から、客観的に、人間の世界が描かれる。ただモノローグだけが流れる。とても人間の世界が虚しく見える。
サーカスの女性に恋をした天使(おっさん)が人間になりたいと願い、羽を失った瞬間から世界は色を帯びる。人間の心の囁きに代えて、空気の冷たさ、空の青さ、コーヒーのぬくもり、私たちがあたりまえに感じているものが、人間になった天使の歓喜の視点で語られる。それはとても心躍ることだ。恋をし、体温を感じ、ただ生きていることはなんと彩りに満ちた素晴らしいことか。
かつて自分も天使から人間になったハリウッド俳優が、おっさん天使に言う。
「周りには結構いるんだよ(天使から人間になった連中が)」
私の傍にも天使がいるかもしれない。そんな不思議な、でもありそうな言葉にただ静かな涙がこぼれた。理由は私にもわからないけど、静かに泣いた。