私は長年BPOのファンであったが、最初に本編を見たときは、正直BPOに強い<嫌悪感>を感じたと言っていいだろう。本編に登場する、とくに長く楽団にいる<長老>たちが、なんとも<偏屈極まりない>人物なのである…。こんな人物たちが作りだしてきた<音>に、今まで自分が魅了されてきたのかと思うと、とてもがっかりしたし、今まで自分がBPOに対して<勝手な理想夢想>を見てきたように思えてしまった。と同時に、私の中での<BPO神話>が一挙に崩壊したような気分になったのも事実だ。とかく私は、カラヤン時代のBPOを好んできたが、ここに登場する<偏屈者>たちはすべて、<カラヤン時代>からの楽団員たちなのだ。
しかし、偶然にも(幸運な事に)、私はこの<コレクターズ・エデュション>を購入したが為、<特典DVD>を見ることが出来た。この<特典DVD>を見ないままだったら、前述した<嫌悪感>がまったく晴れずに終わってしまっていただろう。だからと言って、その<嫌悪感>がこの<特典DVD>によって解消されたわけでは全くない。かえってその<嫌悪>的イメージがより、確実になったとさえいえる。しかし、<特典DVD>の内容は、<なぜそうなったのか?><(あえて)そうしている意味はなんなのか?><その必要性は何なのか?>という事を深く考えさせられる内容であって、ある意味本編より(本編を見ないと特典DVDは、意味が分からないだろうが)重要だと思えるくらいの内容だった。
そしてここに言っておきたいことは、本編DVDに収録されている<オーディーオ・コメンタリー>(本編映像に楽団員の解説を付けたもの)は、本編および特典内容を正確に理解する上で、もっとも重要な要素になっているという点だ。私はこの<オーディーオ・コメンタリー>を見てからやっと、個々としては<偏屈極まりない長老楽団員>たちではあるが、楽団全体としてその<偏屈>が、どんな<意味><機能>を持っているのだろうか?という事に、着目することができた。私は<本編>→<特典>→<コメンタリー>の順序で見たが(意図的にではなく偶然に)、この見る順序も良かったのだと思う。
評価は諸々あるが、<最高峰>と世界中でまかり通っている<ベルリンフィル>である。そこへの入団テストを受ける者は、入団前から既に、世界の名だたる<非凡>たちである。入団テストに受かった後に2年間もの試用期間を経て、<正楽団員>に認められた者へ与えられるのは<名誉>だけではない。<ベルリンフィルの名を背負う>(そういう演奏を楽団員でいる限り絶対的に、永遠に、無条件で求められる)ということ、また<終身雇用>(給与と生活の保証)という物もついてくる。と同時に新規入団員の合否や楽団の運営、常任指揮者すらも自らが選ぶ<投票権の一票>をも背負う事になるのである。
ベルリンフィルの入団試験を受ける時点で既に、演奏レベル的にも自我的にも<ソリスト級>である受験者、そして試用楽団員たちである。それらが正団員になった暁に授与される前述したような<権利>と<責任>のすべて全うし、かつ集団であり一つの社会である楽団に対して<貢献できる人物>に成長させる為の、<伝統の必要性とマイナス点>、そして<制度の正当性と淘汰>の狭間で苦悩する、ベルリンフィルと楽団員たちの実態が、見事に浮き彫りにされたドキュメンタリー作品である。そしてこの作品を手掛けた監督の、映像センスとリアリズムが、これまた見事に表現された作品に仕上がっている。
ベルリンフィルとその楽団員たちに興味のある人ならば、決して退屈しない作品だろう。