このCDについて
狂気に満ちた官能的なドラマと霧の彼方の淡い想い出が交叉する、ゲルギエフならではの極彩色の幻想。2004年レコード・アカデミー賞録音賞を受賞した超優秀録音も大きな魅力です。
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ゲルギエフのいままでのイメージからすると、意外なほど柔らかく上品な《幻想》。全体にウィーン・フィルのカラーが強く出た演奏で、羽目を外すというよりは端正な印象を残す。かといって淡白というわけではなく、細かいディテールに濃厚な表情を持っているところはさすがだ。
第1楽章はその傾向が顕著で、ウィーン・フィルらしい気品と、近年ゲルギエフに目立つようになったピアニシモが印象的。第2楽章のワルツの柔らかくゆったりとした優雅さは、大都会パリよりは幻想の都サンクトペテルブルクを彷彿(ほうふつ)とさせる。第3楽章の静けさにも、ゲルギエフらしい粘りと密度の濃さがある。のっしのっしとゆっくり行進する第4楽章は独特の恐怖感がにじむ。第5楽章は逆に早めのテンポで始まり、鐘の音はかなり遠い。最後の最後になってパワーは爆発するが、聴き手が期待するグロテスクさや怪異な力はここにはなく、意外なくらいに音楽的に純化された演奏である。
むしろ聴きものは叙情的情景《クレオパトラの死》の方だろう。弦の響きもこちらの方がつややかに感じるし、ベルリオーズを得意とするボロディナが絶好調で、妖艶でボリュームたっぷりの美声を聴かせてくれる。緩急自在にウィーン・フィルをあやつるゲルギエフの棒も冴えており、劇的な起伏に富む迫真の22分間は、特大のグランドオペラに匹敵する、ずしりとした満腹感を与えてくれる。ろうそくの炎が一瞬燃え上がって、ふっとかき消すように命途絶えるような霊感に満ちた最期は、非常に感銘深い。(林田直樹)
内容(「CDジャーナル」データベースより)
でたぞゲルギエフ。スクロヴァチェフスキの新録音とはどこまでも対照的にダイナミックな「幻想」は、誰もが想像するとおりで誰にも出来ない秀演。そしてどちらもスコアに忠実な演奏であるのにもかかわらずこの違い! もちろんライヴのウィーン・フィルは熱い。
内容 (「CDジャーナル・レビュー」より)
第1楽章の主部に突入すると、夢と情熱が奔流となってあふれ出す趣に満ちた演奏が展開されている。ただし、ゲルギエフの名を口にしたときに、多くの人が思い描くであろう金管や低弦の思い切った強調や極端なテンポ変化があまり感じられないことを付記しておきたい。そういう意味では、ファナティックな天才としての側面よりも、自己告白的な物語を絶妙のオーケストレーションで描ききった鬼才としてベルリオーズを捉えているのだろう。第2楽章のエレガントな美しさ、第3楽章で不気味な雷鳴を轟かすティンパニの響きも印象的だ。終楽章のテンションの高さもさすがであるが、102小節目からスタートする“ド・ド・ソ”の鐘の音が遠くから弱々しく響いてくるあたりもなんともユニークである。併録曲は「クレオパトラの死」。ゲルギエフの劇場人としてのセンスと手腕が満喫できる名演だ。名花ボロディナが深々とした歌声を活かし、ドラマを大いに盛り上げている。 (満津岡信育) --- 2003年11月号