日本語で書かれたベルクソンの入門書としては定番といえる位置にある書。
中身は大きく分けて三部より成る。第一部はベルクソンの哲学とその生涯を発表された著作順に解説したもの。さすがによくまとまっている。第二部は本書のほぼ半分以上を占める分量のベルクソンの主要著作四冊からの抜粋。正直、本書に限らずこの手の日本語に訳された抜粋集を利用した試しがないので、実用性の程はよくわからないのだが、第一部と相互に照らし合わせて読むと良いかもしれない。第三部はベルクソン哲学の批判的継承の実例として、ユージェーヌ・ミンコフスキーとテイヤール・ド・シャルダンがベルクソンと関連付けて紹介されていて、興味深い。
本書の元書のシリーズ(『人類の知的遺産』)の性格や執筆年代上、巻末の参考文献は国内で出版されているものに限られており、また少々古いのが難点(有名なところで言えば、ジャンケレヴィッチのベルクソン論などが記されていない)だが、逆に今では大学図書館の書庫でしか御目にかかれないような古い訳書や研究書が記載されているのは、それはそれで面白い。
蛇足だが、「ベルクソンの精神圏に属するもの」としてライヤル・ワトソンの著書が紛れていたり、第一部の中でワトソンの著作のタイトルそのままの表現が出てきたりする点は市川さんの意外な趣味が伺えて、碩学に対しこんなことを言うのは失礼に当たるのかもしれないが、何故か微笑ましい。