もし私がこの映画を観なければ、映画監督になりたいなどとは決して思わなかった・・・。
それは、私が18歳の時でした。偶然、NHK教育番組で観ました。
当時の私は、完璧に理解できませんでしたが、なぜかこの映画の中に「完璧な美」を見出しました。
そして映画監督になりたくなった。
その後、トーマス・マンの原作を読み、ビデオやDVDで何度も観ました。
全てのアーティストは、死ぬまで「美」を追い求める。
その主題にすごく共感を感じました。私も「美しいもの」を愛してしました。稚拙ながらも。
それ故この作品は、私に芸術家は深い苦悩と高い美意識をもっていなければならないことを教えてくれました。それ故に私にとつては尊い。
我が映画史上No.1の映画です。
表面的には「デカダンス」あるいは「ホモ・セクシュアル」な作品かもしれません。しかし、ヴィスコンティが問うているのは「芸術家はどうあるべきか」です。
世間ではホモ・セクシャルであるアウトローな作品かもしれませんが、私にとっては、自身の生涯を変えた、とても大切な作品になりました。
ヴイスコンティ作品については全て観ていますが、「ベニスに死す」は、グスタフ・マーラーの音楽、トーマス・マンの原作の優れた変奏とが相まって、彼の美意識を極めた作品だと評価します。
私としては、もしあの時、この映画と出会ってなければ、私は全く異なった人生を歩んでいたと思います。それは、私にとって「決定的な瞬間」でした。正直に言うと、出会わなかった方が、私の人生は楽だったと思います。
日本にも小津・黒澤監督がおり、どちらも尊敬し、愛しています。しかし、私が最も尊敬している監督はイタリアのヴィスコンティであり、我が人生のベスト・フィルムは「ベニスに死す」です。
もし、私があの作品を監督できたら、もう、いつ死んでも思い残すことはないと思える作品で
す。
それ故、ハードルが高すぎて、その壁を乗り越えられず、決して、いつ死んでもかまわないとは思えない私だったりします。