過去に『東京大空襲』や『戦争を語り継ぐ―女たちの証言』などといった戦時の民衆の苦難を克明に記録した名著を上梓してきた著者が、1945年の日本占領下ベトナムにおけるおよそ「200万人」ともいわれる大量餓死を記録したものである。
「第1章「外米」で飢えをしのいだ日々」では著者の少年時代の思い出を交えつつ戦時下の内地における食糧難を描き出す。だが、いかに慢性的な食糧不足に苛まれようとも戦時下の日本では飢餓による死者はいなかった。「外米」によってなんとか飢えをしのいだ戦時下日本人。だが、そんな「外米」はどこから運ばれてきていたのだろうか?著者の丹念な取材は第二章以下において1945年の日本占領下ベトナムにおける大量餓死を克明に描き出す。そこからはフランス・日本による支配やコメの強制買付け、南部仏印から北部へのコメの輸送の停止、食用作物からジュートなどへの転作の強要などといった要因が重なり「200万人餓死」につながっていく構図が浮かび上がってくる。P171「私たちは、まちがいなく、ベトナム人民の血の出るようなとぼしいコメや、汗の結晶ともいうべきトウモロコシを多量に食べて、なんとか飢えをしのぎ、戦時下の厳しい食糧難時代を生き延びたのだ。このことは、何びとも否定できない事実である。かわりにベトナム北中部で、どのような大惨事が起きたかなどは、夢にも知らされずに・・・」
著者が取材の過程で入手した惨劇の写真の数々には戦慄を禁じ得ない。南京事件、ヒロシマ・ナガサキや東京大空襲など戦争の悲劇は数知れず存在するが本書に描き出されるベトナムにおける200万人餓死はそれらに勝るとも劣らない惨劇であるにも拘らず、今でも一般的に知られているとは言い難い。日本軍が直接殺害したわけではないので「戦争責任」としてはなかなかクローズアップされにくいのかもしれないが、近年注目を集めつつある「植民地責任」論を考える上でも、戦時下日本人の苦難もそれがベトナムにおけるさらなる大惨劇の上に成り立っていたこと、被害と加害の錯綜する帝国の戦争について考える上で本書は古いけど今でもなお色褪せない必読の書である。