宇宙SF長編「プロバビリティ」3部作で人気沸騰中のアメリカのベテラン女流SF作家クレスの秀作7編を収めた日本オリジナル傑作中短編集です。私にとって著者の初読作品である本書の感想は概ね静的である事、母と子・姉妹等の家族をテーマに女性らしく細やかな筆致で人間心理の深奥まで描写されている所が印象的でした。また各編はSFが本来持つ難解さが殆どなく、設定の理解が容易ですいすい読み進められます。表題作『ベガーズ・イン・スペイン』遺伝子操作によって生み出された全く眠らない新人類「無眠人(スリープレス)」が獲得した優性・不死性の能力を妬む旧人類「有眠人(スリーパー)」との次第に激化する相克を描きます。無眠人のヒロイン、リーシャと双生児で生まれながら有眠人のアリスは幼い頃から不仲でしたが、アリスは成長して虐げられた無眠人の実態を知り今までの態度を改めリーシャに助けの手を差し伸べます。旧人類の中にも少数でも人間性を持つ優しい人々が存在する事実が深い感動を与えてくれます。本編は最後まで読んでも物語は終わりませんが、後に著者が長編化し3部作となっているそうですので、ぜひ早い機会に紹介して頂きたいです。『想い出に祈りを』息子が老いて死が迫る母に生きて行く為の手段として‘消去を受ける’事を奨め懸命に説得するが母は頑なに拒む。未来の政府は長寿命化の代償として人間関係を希薄にする残酷な処置を発明したのであった。『ダンシング・オン・エア』近未来のアメリカで能力強化治療により幼い頃からバレエ・ダンサーとして活躍して来たキャロラインが不意に体の不調を訴える。彼女はやがて勝手に娘の人生を決めた母を強く憎む様になります。本編に登場するキャロラインの護衛犬で能力強化されてしゃべるドーベルマンのエンジェルが健気で可愛らしいです。人類の進化が不幸を招く気の滅入る物語ですが一抹の希望も残す魅力的な作品集をお奨めします。