マックス・ローチのドラムを歌うドラムだという表現をする事がある。リズム楽器ながらメロディが聴こえてきそうな豊かなイマジネーションが横溢しているからだろう。では、歌手のバッキングで歌うホーンはというと、これはそのまま歌詞のない歌を歌う楽器であり、インストルメンタルとは異なった独特の世界が広がる。ジョン・コルトレーンとジョニー・ハートマン共演盤などはコルトレーンというもう一人の歌手が歌い上げ、情感豊かに語りかけてくる様子がうかがえる。ヘレン・メリルの畢生の傑作である本アルバムは、まさにクリフォード・ブラウンという最高の歌い手との競演によって自らの限界を超えた彼女の最高のハートが表出したといえよう。ドント・エクスプレイン、ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥなど技術を超えた心の本質がつむぎだされている。ブラウンのソロも優しく、自由に流れるようなフレーズで間奏を入れる。ホワッツ・ニュー、恋に恋して、イエスタデイズなどどれをとっても名曲であり、ヘレン・メリルの存在証明を過不足なく伝えている。このアルバムに加え、サラ・ボーン、ダイナ・ワシントンといった異なった実力派とクリフォード・ブラウン共演の3部作のセッションは、エマーシの優れた企画として永遠にアーカイブされるであろう。