現在「アフターヌーン」誌で「ヒストリエ」を連載している岩明均が、2001年から翌年にかけてヤングアニマル増刊「Arasi」で連載した古代史もののコミック。「ヒストリエ」は2003年からの連載開始なので、いわば「ヘウレーカ」は「ヒストリエ」の原型とも言えるものになっている。「ヒストリエ」の主人公エウメネスが勇猛果敢なスキタイ人の血を引きながら本人は頭脳型で、歴史の中に外国人というアウトサイダーの立場から関わっていくのに対し、「ヘウレーカ」の主人公ダミッポスも勇猛果敢で知られるスパルタ出身ながら頭脳型で、シラクサとローマの戦いの中に外国人というアウトサイダーの立場で関わっていくことになる。「ヒストリエ」の方が扱っている時間も長く、物語のスケールも大きいので、おそらく「ヘウレーカ」はそのパイロット版のような意図で制作されているのだろう。
紀元前219年から始まった第二次ポエニ戦争。紀元前216年にカンネーの戦いでローマ軍を撃破したカルタゴ軍は、イベリア、ケルト、マケドニアと連合してローマを包囲。この時勢を見てローマと同盟関係にあったシチリア島シラクサでは、親カルタゴ派のエピキュデスが政治の実権を握ってローマとの戦いが始まる。市内のローマ人は捕らえられて市外に追放されたが、たまたま外出して家を留守にしていたローマ人の娘クラウディアは、カルタゴ派の手が我が身に伸びる前にスパルタ人の恋人ダミッポスと共に、シラクサが誇る天才学者アルキメデス宅に匿われることになる。シラクサには名将マルケルス将軍率いるローマ軍が迫るが、シラクサはアルキメデスが発明した数々の防衛兵器でこれを寄せ付けない。間もなく戦闘が膠着状態に入ると、ダミッポスはクラウディアを連れて市内を脱出しようとするのだが……。
戦記物としての面白さは、シラクサを防衛するためアルキメデスが発明したとされる数々の秘密兵器が活躍する場面。城壁の上に取り付けられた装置から戦艦の上に石を落とすとか、巨大な起重機で船を持ち上げると行った仕掛けはまだのどかなもの。城壁の上に侵入した敵兵を巨大な風車のようなカッターで横なぎに切断してしまうあたりから血なまぐさい世界になり、クライマックスはエウリュアロスの要塞に装備された巨大な投石機。雨あられと降り注ぐ投石機の砲弾にさらされ、肉体が粉砕されていく兵士たちの姿はまさに残酷絵巻。しかし物語はこうした兵器巨大化のインフレでは終わらず、最後は城壁の上から射られた1本の矢がシラクサ陥落のきっかけを生み出すことになる。
このままでは到底完結しそうにない「ヒストリエ」に比べると、「ヘウレーカ」はコンパクトにまとまっていて読みやすい。だがどうしても戦場のスペクタクル描写が目立ってしまい、人間ドラマが後回しになってしまっているような気もする。ダミッポスも主人公と言うより狂言回し。ではそれにかわる主人公が誰かいるかというと、じつはこの作品においては登場する人間たちが全員「脇役」になっている。主役は歴史そのもの。歴史は多くの人たちの命を飲み込み、自らは沈黙するのみだ。