Number Webに連載された「スポーツの正しい見方」から選ばれたエッセイ他で構成された、日本プロ野球に対する海老沢さんの批判と提言がつまった1冊です。後半はサッカーに関するエッセイで構成されていますが、タイトルに付けられたとおりプロ野球が話題の中心の書物であるとしていいと思います。
さて、僕は海老沢ファンです。そこをあえて「亡くなった方を鞭打たない」という日本的美風にさからって、この本は海老沢さんの日本プロ野球批判のやり方としては間違っているのではないかと記しておきたいと思います。
海老沢さんの原風景が昭和40年代のジャイアンツにあるのはわかります。だれにもそういう少年の時期に焼き付けられたシーンがあるから。それが50年代に入って(ほかならぬ長島自身によって)損なわれつつあるのだという危機感が20代のおわりに差し掛かった海老沢さんを走らせ、広岡達朗さんをモデルに「監督」、あるいは「みんなジャイアンツを愛していた」を記させた。そのとき、僕は思うのですが、海老沢さんには批判は生の批判の形をとってはならないという自律があったはずです。だから彼は小説という形式をとった。その抑制があったからこそ読者の胸を打ったわけです。
それが晩年の海老沢さんにはあえて書きますが「小言」「苦々しい顔つき」が前面に出てくるようになった。結果、その論調がたとえば千葉ロッテに対する肩入れのように、世間のファンが「現在の」プロ野球を受け入れるのとはちょっと違った色合いを見せていたのは知られていることと思います。
本書を読んで、海老沢さんには最後まで「もうひとつのプロ野球」を描いた小説の世界で押してほしかったと痛切に感じました。
だからといって本書に読む価値がないというのではありません。文章はいつもと同じように中庸で上手だし、海老沢さんの原風景がわかっていれば主張には頷けるところが多い。しかし、と思うのです。惜しい。海老沢さんの夢見ていた世界は、彼が晩年に選んだ論調では描ききれない、そのことを海老沢さん自身がいちばんよくわかっていたのではないかと僕は思います。もっと彼の世界を小説で読んでみたかった。ご冥福をお祈りします。