同名の朝日新聞連載を書籍化したもの(2012年2月途中分まで)。
連載時は興味深く、楽しみに読んでいたが、書籍としてまとまって読んでみると、荒削りな面や欠点も目についた。
しかし、それでも、いずれ編まれるべき「オーラルヒストリー(口述による歴史)福一」への第一歩となる内容であり、朝日新聞の面目躍如と評価できる。
<欠点>
・他の書評子に評価が高いのが第6章「官邸の5日間」。それには大いに同意するが、例えば福島からの避難者や、首都圏での低線量被曝への怯えについて描いた章は必要だったのか。歴史事象として見たとき、情報量は膨大であるし、民間でのことは大新聞以外でも書くことはできる。政策的な意思決定過程にしぼって取材してもよかったのではないか。
・大事な事、ショッキングなことがかなり書かれているが、しかし、どうも取材した結果、特ダネと判断したものを五月雨的に載せているように感じる。事件全体を俯瞰して、時系列や重要性に応じて配置していったという印象は受けない。すなわちキュレーション(情報の取捨選択)がなされていない。例えば、外務省の若手官僚が米軍にSPEEDI情報を流す場面が印象的に描かれているが、官僚の活動を実際に描いている部分はごく僅かだ。この件以外にも官僚がキーとなる意思決定をしていたことはいくらでもあると思う。
・官邸vs官僚vs東電としてみた場合、かなり菅首相寄りの記述をしている。事故調査委員会の報告書は、菅首相の指揮ぶり(知り合いを内閣参与に任命する反面、官僚のレクを退けた)をかなり痛烈に批判している。
<良い点>
・ともかくも政府の公式発表や、翌日の新聞ではわからない生々しい営みが明らかになったのは大きい。例えば、東電の清水社長が経産相に福一撤退を申し入れたとき、吉田所長は総理に電話で「まだやれます。ただ、武器が足りません」(この場合の武器はポンプや電源車のこと)。総理が福一の現場に行った時には吉田所長は「(ベントを)決死隊を作ってでもやります」。
・菅首相について言えば、官僚や東電から情報が上がってこない(首相の方で拒絶したのか、官僚側の不手際かは私にはわからないが)状況で、しかし、少なくとも、福一放棄という最悪の事態は首相の強い意志で食い止めたとのことだ。官房長官や経産相まで含めて、一時は官邸全体が撤退やむなしという雰囲気になったという。それを食い止めたリーダーシップをきちんと描いたのは良かった。
政府の意思決定以外では、SPEEDI情報が生かされなかった顛末、放射能観測予算の停止と復活の顛末、東電の責任と低線量被曝のリスクについて、などのトピックが扱われている。
連載時に興味をもった人はもちろん、原発事故について感心のある方には一読をおすすめしたい。