評価は、原著が星五つ、翻訳書が星一つです。
・翻訳書について
はっきり言って珍訳です。学生が翻訳したのでしょうか。誤訳がたくさんある上に日本語として意味が通らない文章が多くあります。理解できないとしても、読者の理解力がないからではありません。翻訳のせいです。大体のことがわかれば良いという読書の仕方でしたら、まあ、ぼんやりとはわかります。ですが、著者の言いたいことを正確に把握しようと思うと、この翻訳では無理です。
たとえば、10の原則のうちの次の2つを読んですっと理解できる方はいるでしょうか?
あなたの無知にアクセスせよ。
あなたのすることはどれも介入である。
最初の文の意味は「あなたが知らないことは(放って置かず聞くなり調べるなりして)明らかにせよ」です。次の文の「介入」は原文で intervention です。英和辞典を引けば「介入」と書いてありますが、この語はずっと広い意味で使われます。この本での意味は医療でいう「治療」、教育でいう「指導」です。全体の意味は「あなたのすることはどれも指導(コンサルテーション)である」です。
『
洗脳するマネジメント』の解説で金井壽宏さんが「プロセス・コンサルテーションとは、クライアント組織の依頼により、その組織に介入して、相手に役立つ揺さぶりをかけつつ、組織のありのままの姿を変化プロセスの中に探る方法だ。」と書いていますが、おそらくこの翻訳書を読んだための誤解です。
原著を読めば分るように Process Consultation とは「伝える内容(content)」よりも「伝える過程(process)」を重視する consultation の意味です。「揺さぶり」などはかけませんし、 process は「変化」でなく consultant と client が理解し合う過程です。誤解の原因は「介入」ということばを大袈裟に捉えてしまったことと誤訳のためだと思います。専門の学者でも誤解してしまうほど分りにくい翻訳なのです。
・原著について
この本は二度驚きます。まず届いた時、装丁がペーパーバックの糊付けで、厚さも薄く、ページの余白も少なく、これが45ドル(当時)もする本なんだろうかと。次に読み始めて、内容の深さと豊かさに。コンサルタントが企業等のコンサルテーションを行なう方法について詳しく述べています。
もしもプロのコンサルタントでなければ、
Helping: How to Offer, Give, and Receive Help の方をお勧めしたいと思います。ハードカバーで紙も上質(この本に比べれば)で印刷も美しく安価です。内容的にも重複する部分が多く、説明もこの本より洗練され分かりやすくなっています。なお、そちらの本も翻訳書が出ていますが、著者が可哀想に思えるほど誤訳が多く、基礎となる心理学と社会学の知識を読み落としているため、安易な通俗書に成り下がっています。
この本の文体はドイツ語の癖なのか関係代名詞でセンテンスが長々と続き、やたらと挿入句が入り複雑です。文体を別にしても、難しい本であることは否めません。内容そのものもありますが、著者の説明の仕方も難しいのです。どうもMITの優秀な学生たちを相手にしていることに慣れているのか、読者に察しの良さを要求する書き方です。