2002年から03年にかけて録音されたヤブロンスキーのプロコフィエフのピアノソナタ全集がやっと07年になって発売された。3曲だけ入ったアルバムが先行発売されていたものの、待たれた企画であり、タイミングが随分遅くなったのが残念である。
いきなり残念モードで語り始めてしまったが、内容・演奏は本当に素晴らしいの一語に尽きるものだ。私はプロコフィエフのピアノソナタが大好きである。ドイツロマン派では廃れてしまった「ピアノソナタ」というジャンルが、ロシアでロマン派ピアニズムとあわせて綿々と受け継がれていたことも興味深いし、プロコフィエフの場合、日本も含む世界各地に滞在し、様々な時代の空気を吸収した人だから、この大戦や虐殺の多かった時代に独特のアイロニーやグロテスクを反映させた彼のピアノソナタは、今聴いてなお暗示的である。ただ、これまで全集として「これ」という録音がないと感じていたのだが、このヤブロンスキー盤はしばらく決定版的に君臨するのではないだろうか?
まずピアノの豊かな質感のある響きが素晴らしい。そのしっとりとした落ち着いた響きは、まるでドイツロマン派のピアノ作品のような雰囲気をもたらしている。それでいて全編に漂うプロコフィエフ特有のスケルツォ的性格は見事に描き分けられている。
第1ソナタでは魅力的な主題が存分に歌われていて胸のすく思いだし、第2番の第3楽章(この中間部は私にはショパンの雨だれの前奏曲を思わせるのだが)の持続音の美しさ、その描き出す情感も清廉で気持ちいい。第5番の第1楽章の透徹したニュアンスも鮮やかの一語に尽きる。第6番や第7番もメカニカルな技巧に支えられた情感が瑞々しい。第8番や第9番のどことなく沈鬱な雰囲気も適度な憂いを帯びており美しい。個々の楽曲にはそれぞれ対抗盤は存在するが、全集としての完成度の高さで、まず一頭抜けた感のあるヤブロンスキー盤の登場を歓迎したい。