星の数には注釈が必要である。文字文化と脳科学の関係を専門的に学びたい人には、5つ星の教科書・参考書であろう。この翻訳困難な本をよくぞここまでうまく翻訳したと、英語と専門分野に通じているに違いない翻訳者を称えたいので、日本語で勉強したい人にとっては福音であろう。
専門家になる気は無くて、文章を読む時の脳の働きや読字障害などの一般常識を深めたい私のような読者にとっては、本書は読んで理解できる明解さに欠け、3つ星の評価である。平均して4つ星としよう。単純明快でない理由は多分、(1)脳科学の複雑さと、(2)原本の親切心不足にあって、(3)翻訳者の罪ではなかろうと感じた。
本書は3部作で、(1)文字文化の発生と発達、(2)子供が文章を読めるようになる過程、(3)読字障害、をそれぞれ脳科学から解説している。
私が学んだ点の幾つかを列挙すれば、(a)聴覚などとは異なり、読字能力は天賦のものではなく、個々人の学習により脳の天賦の機能が連結され転用されて実現するものであること、(b)文字は絵文字→表意文字→音節文字→音素文字のように進化し、脳も同時に進化してきたこと、特にエジプトの象形文字を含む多くの古代言語で漢字かな混じり文のように表音文字+音節文字の形が広く用いられた歴史があり、日本語の漢字かな混じり文が必ずしも特殊な歴史の悪戯ではないこと、(c)英語と中国語では読字に用いる脳機能は異なり、日本語は中間的であること、(d)読字能力の育成取得には、幼児期の文字文化環境が深く関係していること、(e)読字障害の原因は多種多様。しかし読字障害の人は総じて右脳機能が発達し、Edison, da Vinci, Einsteinのような偉人も輩出していること、などを興味深く理解した。